「Z世代に魅力を知ってほしい」“クセが強め”な自治体、佐賀県 TikTok アカウントがスタートするまで
「地方創生」の動きが活発になってきた昨今。特にコロナ禍に突入した2020年以降は、外出自粛の影響を鑑みて、SNS を利用したPR を行う企業や自治体が増えました。その中でも「TikTok」は、Z世代のユーザーが主流ということもあり、これまで届いていなかった若年層へ、アプローチする手段として、大きな注目が集まっています。
今回登場する佐賀県庁のみなさんは、県の魅力を全国に届けるために、YouTube とTwitter など、積極的にSNS を活用。地方創生プロジェクト「サガプライズ!」では、『刀剣乱舞』に『ヴィンランド・サガ』、『かいけつゾロリ』などユニークなコラボレーションを続々と発表しています。そんな“攻めた”自治体も、2022年10月より、ついにTikTok「佐賀県情報発信所」をスタートさせました。弊社代表・明石の対談から、開設経緯を紐解いていきます。
目次
あえて都心・青山に“佐賀県発信基地”をつくった理由「ショート動画の可能性と魅力をすごく感じた」誰もがクリエイターになれる時代の新しいPR1,000万回も再生されている「#佐賀弁」。自然な佐賀弁のために、佐賀出身クリエイターを起用| PROFILE

あえて都心・青山に“佐賀県発信基地”をつくった理由
明石
本日はよろしくお願いします。先日も佐賀県に出張させていただいて、ありがとうございました!その時いまだに覚えてることがありまして。それが「2枚きっぷ」という“初見殺し”のシステム。この買い方について、あれほどまでにJR九州の職員さんと熱く語り合った日はないなと思っています(笑)
近野
よく東京からいらした方が戸惑われるのを聞きますね。そして、あの日はすごく天気がよかったのに、ちょうどいらっしゃる時間に雨が降りはじめたんですよね(笑)
「2枚きっぷ」とは乗車券と指定席特急券がセットになった2枚1組の回数券のこと。

明石
まあその後、県庁の若い職員の皆さんとお話させていただいたんですが、場所が職員の食堂ですかね? いわゆる食堂っぽいところではなくて、すごくキレイで開かれていてビックリしました。スタートアップ企業のオフィスみたいな雰囲気で。
近野
そうなんです。県の施策には「デザイン」という視点を入れています。施設だとただ使い勝手がいいだけではなくて、きちんとデザイン視点を入れ、みんなにとって居心地のいい空間を作ろうと。
明石
オシャレな空気感で良かったんですけど、 17時になると空調が止まるんですよね(笑)
喋っていた時間がちょうどそのぐらいで、僕、こんな髪型のせいもあって、すごい湿気がこもりやすく暑くて。それを見た職員の皆さんが扇風機を3台ぐらいかきあつめてくれて、髪が風になびいたまましゃべていたのを思い出します(笑)
2022年夏に佐賀県庁にお伺いし、「SNS動画ブランディングの新常識」について勉強会をさせていただきました。確かに扇風機が見えます…

明石
柴田
ここが「サガプライズ!」プロデュースオフィスになっています。クリエイティブな活動をしていくにあたって、みんなで話しやすい空間をコンセプトに、クリエイターさんたちも多いこのエリアを選定したと聞いています。目の前の「骨董通り」は、まさに骨董店が多く、佐賀も焼き物が有名ということから親和性が高いんです。
佐賀県庁の東京・青山オフィス。

明石
「サガプライズ!」プロジェクトですけど、もう相当いろいろなところとコラボしていますよね。それも結構攻めた感じの。
柴田
2013年からスタートして、36のコラボプロジェクトを実施してきました。“さが”つながりでコラボが実現したスクウェア・エニックスさんの『ロマンシング 佐賀』プロジェクトだったり、ロバート秋山さんの『クリエイターズ・ファイル』とコラボだったり。アパレル会社さんとの取り組みもありますね。いろんな企業とか、アニメ、ゲームとかとコラボレーションして、佐賀県の地域資源の磨き上げと「佐賀が面白いことをしている」と、話題になるような情報発信していくプロジェクトを目指しています。
明石
そういう意味では、このオシャレなロケーションの理由もわかってきますね。
柴田
まさにおっしゃる通りです。実際に打ち合わせする時、なかなかオンラインだと温度感が伝わらなかったりしますし、新しい情報をリサーチできるというメリットがあります。佐賀県の「前線基地」と言いますか、東京に広報課のプロジェクト拠点がある自治体はなかなか無いのではと思います。
「ショート動画の可能性と魅力をすごく感じた」誰もがクリエイターになれる時代の新しいPR
明石
ここまでの会話でも、佐賀県がクセ強めというか、異彩を放ってるなっていう感じなんですけど、僕はお世辞じゃなく、前から注目していて。焼き物も好きですし、”サウナー”なんで武雄市にある御船山楽園ホテルとか、「サガプライズ!」でもコラボしている「サウナイキタイ」(※1)注目のところがたくさんあるわけですよ。僕の周りで言うと、美食家、いわゆる”foodie フーディー” と言われる人たちがこぞって行ってたりするんですよね。自分でも何か所か回ってみて驚いたのは、ほとんどの店主が平気で炎に手を突っ込んでいて、佐賀県には“炎系能力者”がたくさんいるのかと(笑)
そんなヤバめな県のど真ん中にある県庁さんと取り組みが出来て光栄なんですが、どういうきっかけでまたTikTok を使おうと?

近野
県ではさまざまな媒体を利用した情報発信を行ってきました。最近では特にYouTube を使った情報発信に力を入れていて、それこそワンメディアの皆さんと去年の3月ぐらい話している時に「誰か有名なYouTuber 知りませんか」と聞いたんですが、皆さんはTikTok の話ばっかりで(笑)
明石
すみません(笑)
近野
TikTok を利用してこなかったのは、あまり知識もなく、他の自治体の例も多くなかったとっていうのが大きかったんですよね。ただ、やっぱり世の中的に「TikTok」の単語はよく聞くようになったし、ワンメディアさんがそこまで押すのならこれからはTikTok なんじゃないかなと。実際に話を聞いてみると、TikTok と、そしてたて型ショート動画の可能性と魅力をすごく感じたんですね。
明石
僕らは多分、他の自治体さんだったら言ってないでしょうね。クリエイティブに明るい佐賀県だからTikTok をおすすめしたっていうのもあります。
近野
明石さんが以前講座で「これからは本当にスマホ1台で、誰でもクリエイターになれる」と言っていたのも後押しになりましたね。動画制作を自分たち自らで行うという発想もなかったのですが、明石さんの話を聞けば聞くほどそんなに難しいものではなく、みんながそれぞれ動画を作ることができるようになり、クオリティに磨きをかけていけば、これまで届かなかったZ世代の若い子に、県の情報が届くんじゃないかなと思ったんです。

明石
いや、本当にそうっすね。
TikTok は誰もがスマホを駆使して編集している世界だから、佐賀のいろんなヤバいところを切り取っていけば、YouTube よりも効果は高いと思っています。実際、他のプラットフォームと比べてみて感じたこととかありますか。
近野
もう狙い通りでした。単純にTikTok アカウントから見える視聴データでも若い人が圧倒的に多くて。10代、20代が6割近く見ているんですね。若い人たちって先入観なくフラットに見てくれるから、今の段階で佐賀県の情報を吸収してもらって、5年後や10年後に観光で来てもらうなんてことがあればなと思っています。
上野
立ち上げ後、毎日分析していますが投稿内容によって反応が違い興味深いです。
佐賀県情報発信所 (@saga_kouhou) のTikTok アカウントのフォロワー属性(2023年1月時点)

明石
「佐賀をバズらせたい」というのが今回のアカウントのコピーになっています。TikTok では、今までのSNS で経験してきた“バズり”とはちょっと違うベクトルで盛り上がって欲しい、など考えたりしていますか?
上野
TikTok では1個1個バズってほしいというより、「何が流行っているか」というトレンドを抑えつつ、継続してやっていくことで他の投稿に波及していくイメージを持っています。連続で情報発信を見ていただいて、佐賀県の「厚み」を知っていただけると嬉しいですね。
明石
過去のIPコラボレーションでもアテンションを集めていますけど、それに甘んじることなくTikTok を活用して予算を割く姿勢が素晴らしいですね。
近野
居心地の良さにあぐらをかくことなく、失敗を恐れず新たなことにチャレンジするのが佐賀県のスタンスなので。ただTikTok に関しては、僕らもまだまだ勉強中のため、しっかりとTikTok のトンマナや、何が流行るかがわかった人が参画して企画を考えることが最重要だと思っています。そのことがわからない所に任せてしまうと、本当にポンコツな企画がたくさん出てくるような気がします(笑)
明石
TikTok らしい動画とそうじゃない動画はすぐに分かりますよね。
近野
そういえば以前、スマホで写真・動画の撮り方を紹介している「あああつし」さん(※2)にワークショップをやってもらって、県庁の人が動画を撮ってみたんですね。1時間くらい撮影して、編集を20分したところ、もう“見れる”レベルのものが作れたんです。
明石さん、ちょっと見てもらってもいいですか?
明石
おお、すごい。結構“あああつし節“が入ってますね(笑)
これは佐賀県特産のいちごをテーマにしたものですが、このフォーマットを一緒にしてほかの佐賀の野菜、果物もやれますね。
実際の動画がこちら
1,000万回も再生されている「#佐賀弁」。自然な佐賀弁のために、佐賀出身クリエイターを起用
明石
今回うちで佐賀県さんのTikTok アカウントをプロデュースするとき、まずはSNS で話題になっているものを調査する「ソーシャルリスニング」という手法を取ったんです。
佐賀において「今すでに生活者が会話していることは何だろう」って調べたら… それが「佐賀弁」だったんですよ。TikTok では「佐賀弁」というハッシュタグで1,000万回以上再生されていて。
この数字は想像していました?
近野
全然してないです!びっくりしました。佐賀県の人が佐賀弁を誇りに思っている証拠ですね。昨年、『かいけつゾロリ』とのコラボで、ゾロリが佐賀弁でつぶやくっていうのをTwitterであげたんですけど、確かに1番反応がありましたね。
明石
関西弁だったり、福岡弁も人気がありますが、ただ話せばいいってわけでも無いんですよね。縁のある人たちが話したり、コンテンツ制作するのが熱があって良いと思います。
近野
私は佐賀に12年間住んでるんですけど、実は北海道出身なんです。例えばそんな私が佐賀弁のことをやっても嘘っぽくなってしまいます。
なので、本当に佐賀のことが好きで心から情報発信したいと思っていて、さらに若い人たちに共感を得られる感性を持った人をTikTokアカウントの顔として立ってもらいました。そういう意味で、ご提案いただいたみきさん(※3)は最適な方でしたね。
明石
みきさんはまだTikTok だと約3,500人フォロワー(※2023年4月現在)で、すごく有名なクリエイターってわけじゃないんですよね。でも佐賀県出身で現在は東京に住んでいらっしゃって、普段から佐賀弁でTikTok で発信をされていた。だから視聴者の反応も知っていたみたいなんですね。
他の候補のクリエイターさんには、佐賀弁の親子とか、佐賀弁のアナウンサーなどいろんな人がいたんすけど、 みきさんは「佐賀弁が可愛い」っていうコメントで盛り上がっていることに注目しました。
近野
変に奇をてらわずに、狙ってない感じが、私たちから見ても共感しやすかったです。彼女の「佐賀県のPR頑張りたいです!」っていう熱い思いもマッチしましたね。
明石
10月15日からスタートして、いまちょうど1ヶ月半くらい(※取材日は12月末)です。毎週1本ペースで、2月までに合計20本投稿する予定ですが、すでに総再生回数は50万回を超えていて、他の自治体と比べても良いですよね。
なにより、広告配信することなく、全部オーガニックで再生されているのがすごい。「佐賀県をバズらせたい」というテーマでやっているので、オススメのスポットがコメント欄に寄せられているんですが、これが僕としてはめちゃくちゃいい現象だなと思っていて。
TIkTok の優れたクリエイターの人のコメント欄って、大体“スレッド化”してるんですよ。いわゆる掲示板みたいになっていて、あれもいいよこれもいいよみたいに、ファン同士が会話し出して、「1対n」の関係性が「n対n」になっている。どんどんエンゲージメントが上がる動きです。
近野
現時点でフォロワーが2,500人ぐらいで「いいね」が11万。僕らとしては、約1ヶ月半ぐらいの運用で「ここまで伸びたか」っていうのが正直な気持ちです。
フォロワーが増えてくると欲が出てくるもので(笑)今はTikTok アカウントを持っている自治体でも一番になりたいですね。県外向けに発信するようにしてはいるんですが、データを見てみると、佐賀県の人が30パーセントくらい見ていて、それが結構嬉しくて、県の人たちが佐賀の良さを再認識しているのかなと。ゆくゆくは、県民を巻き込んで、TikTok のワークショップができたら良いですよね。
明石
佐賀って「ヒーローコンテンツ」(潜在顧客を含む幅広い顧客層にリーチする話題性あるコンテンツ)がたくさんあると思っています。でも「ハブコンテンツ」(自社の製品やサービスの魅力を伝えることでコンバージョンに繋げるコンテンツ)はもっと量が必要なので、県庁の若い職員さんたちがリードして作っていけるようになると相当強いですよね。本当、佐賀の焼き物みたいに立派な、いい器ができてくる(笑)そもそもお話させてもらった時に、皆さんセンスとやる気を感じたので。
近野
そう言ってもらえるのはめちゃくちゃ嬉しいですね。
Googleが提唱する動画コンテンツの3つのHのうち、【Hero動画】は、より多くの人の注目を引き、自社の商品やサービスについてまだ知らないユーザーに認知してもらう動画のこと。【Hub動画】ファンになり得る見込み客と企業をつなぐこと動画のことを指します。 引用:Googleが提唱する「HHH戦略」とは? 「Hero」「Hub」「Help」3つのHHHコンテンツを解説 https://thingmedia.jp/2819
明石
私も結構いろんなとこに呼ばれて行きますけど、分かるんですよ。「この人は会社に言われてとりあえず聞いてるだけだな」とか。でも佐賀県庁の若い方たちは、ちゃんとモチベーションを高く持って、今この時間を過ごそうとしてくれていました。この方たち自身がクリエイターになれる!と確信した瞬間でした。地域の魅力をうまく発信してくれるんじゃないかと期待しています。
近野
いま、インバウンド向けにもTikTok が使えるんじゃないかと考えています。例えばドラマ風に撮影してローカライズしてみたりすると海外でも面白がってもらえるのかな、なんて考えています。
明石
そのチャレンジ精神は素敵ですね。東京、京都、大阪とか大都市をみんな目的地にしがちだから、佐賀県も「聖地巡礼」となるように、面白いコンテンツを投下していってほしいです。ぜひ海外の人にもね、例の炎に手を突っ込む料理を見てほしいです(笑)
※1 サウナイキタイ 日本最大級のサウナ検索サイト。
※2 あああつしさん 福岡県在住の映像クリエイター。美しい映像のVlogとそれを撮影するテクニックの解説が人気のVloger。
※3 みきさん 「佐賀をバズらせたい」佐賀弁女子として活動する、佐賀県出身の現役音大生。
| PROFILE

佐賀県庁 政策部 広報広聴課 副課長
近野顕次
広告業界での勤務を経て2011年佐賀県に入庁。入庁後、国内外の映画・ドラマ等のロケ誘致、佐賀県を題材とした小説・漫画の制作、アニメ制作支援などコンテンツを活用したPR・広報や、YouTube、TikTok等の動画を活用した情報発信事業を担当しており、2023年4月より流通・貿易課にて県産品の海外販路拡大等の事業を担当している。

佐賀県庁 政策部 広報広聴課 サガプライズ!プロジェクトリーダー
柴田晃典
スポーツクラブ、ラジオ局勤務を経て2018年佐賀県に入庁。県内に伝わる伝承芸能の振興、JAXAと佐賀県の宇宙教育プログラム等の取組「JAXAGAプロジェクト」にも従事し、2021年4月サガプライズ!に着任。企業やコンテンツとのコラボレーションを通じた情報発信事業を担当している。

佐賀県庁 政策部 広報広聴課 企画係 主事
上野裕也
2016年佐賀県に入庁。介護保険、まちづくりの部署を経験しながら、地震で被害を受けた熊本県への長期災害派遣や、新型コロナワクチン接種の調整などにも従事。2022年10月から現所属。県公式SNSの運用や、YouTube、TikTok等の動画を活用した情報発信事業を担当している。
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